「先生、もう無理です…」『2:6:2の法則』を軸に学級を立て直す

- 組織を「2:6:2の法則」に当てはめて分析する
- 生徒の力を借りる(担任一人で頑張ろうとしない)
- 中間層を上位層側に引き上げる
今年度も残りわずかとなりました。
授業でいくつかの学級に顔を出していると、その学級ならではの成熟のしかたが見えてきます。
「先生、わたしクラス替えなくていいです!」や「来年も今の〇〇先生が担任だったらいいなと思うんです。」などの声も聞こえてきます。
生徒同士、そして担任とのつながりができている学級は、まるで1つの家族のようです。
しかし、一方で、トラブルや欠席者の増加など、学級経営が上手くいっていないところもあります。
3学期の始め、新規採用された中2担任から「先生、放課後ご相談があります…。」と言われました。
放課後、話を聞こうとすると、開口一番、「先生…、このクラス…、僕にはもう無理です。僕は、教員に向いていなかったのかもしれません。」と涙ながらに打ち明けられたのです。
話を聞いていくと、「これまで10カ月間必死で生徒に関わってきたつもりですが、生徒と関係が築けません…。」というのが悩みの原因でした。
相談の最後に、「これからどうすればいいと思いますか?」と問われました。
もしあなたがその学級の担任であれば、学級を立て直す(少しでも良くする)ために、残り数か月でどんなことをしますか?
今回は、私が新採の先生に提案した、「2:6:2の法則」を軸として、学級を立て直す考えについて紹介します。
「2:6:2の法則」とは
組織やチームのパフォーマンスに関する分析に用いられるもので、この法則は、組織内のメンバーを以下の3つのグループに分類したものです。
「2:6:2の法則」の階層
上位層:2割(リーダー層)
このグループは、非常に高いパフォーマンスを発揮し、組織の成功に大きく貢献するメンバーです。リーダーシップを発揮し、他のメンバーに良い影響を与えることが多い。
中間層:6割(中堅層)
このグループは、平均的なパフォーマンスを示し、組織の基盤を支えているメンバーです。成長の可能性があり、適切なサポートやトレーニングを受けることで、上位層に昇進することが期待されます。
下位層:2割(低パフォーマンス層)
このグループは、パフォーマンスやモチベーションが低く、組織の目標達成に対してあまり貢献できていないと見なされることが多いメンバーです。場合によっては、改善のための支援が必要になります。
具体的な取り組み
対象となる学級を、この法則に基づいて考えた時、上位2割がなかなか前に出ることができず、中間層の6割が下位層の2割になびいている(引っ張られている)ことが、学級経営がうまくいっていない原因(担任の指示を聞かない)になっていました。
1.自己決定:生徒が課題を考え、行動目標を決める
学級担任から相談をされた数日後に、学活の時間があったので、まずは生徒自身に、現在の学級の課題を考えさせることにしました。
①生活面 ②授業面 ③人間関係の3つに視点を絞り、以下の流れで進めました。
- それぞれ特に解決すべき課題について、1つの視点につき、2つずつ課題を書く。(付箋に記入)
- 課題を、各班ごとに、KJ法で用紙にまとめ、課題をグルーピングして発表する。
- 3つの視点について、課題を解決するための行動目標を1つず立てる。
- 毎日帰りの会で、各班ごとに振り返りをし、学級での達成度を可視化する。
- 行動目標は、達成条件を80%として、クリアできたら翌週は新しい行動目標を立てる。
この時、特に大切にしたのが、以下の3点です。
・行動目標は、○か×で誰もが評価できること
・達成するたびに、毎日シールを貼るようにして、成長を可視化したこと
・目標を立てさせるだけでなく、「行動の変化」につなげること
ちなみに、学級の立て直しに取り組み始めて1週目の行動目標は以下の3つです。
①生活面
机の上に落書き0(帰りの会で確認)
②授業面
2分前着席、授業の忘れ物0(授業開始前に毎回総務が確認)
③人間関係
「死ね、キモい」のマイナス発言をしない。
上記の3つは、普通に考えて、中学2年生であればできていて当然のようなことですが、これができていない現状でした。
しかし、生徒の中で「おかしい状況」という認識があったからこそ、何より最初に改善すべき課題として挙げられたのでしょう。
この取り組みを始めて、数日で変化が見られました。
生徒自身が課題を考え、自ら行動目標を立てたことで、上記の3つを意識して生活するようになったのです。
それが結果的に、学級の「行動の変化」につながりました。
2.教師側の働きかけ
上位層の2割、そして中間層の6割の成長を促すため、以下の3つを積極的に行うようにしました。(下位層2割についても、同様の働きかけ)
①行動目標の確認と振り返り
・朝の会で行動目標を確認し、帰りの会でその達成度(成長)を認める話をする。
②担任が、生徒と関わる量を増やす
・毎日必ず1回は、学級の全生徒と話す。そのために、名簿にチェックを入れて漏れがないようにする。
・登校時の朝の会前は話によるコミュニケーション、昼休みは会話するだけでなく、余裕があれば一緒に遊んで汗を流す。
・帰りの会終了後に上位層2割を中心に、その日の様子や今後の目指すべき方向性について10分程度話をする。(作戦会議)
③交換ノートの実施
・B5サイズのノートを三分割に裁断し、表紙に「先生との交換ノート」と書いて配布する。
これまでも、学校で配布される「学活ノート」で生徒と担任の文字によるやりとりはありました。
しかし、「今日は、体育が楽しかった。」や、「英語の時間に発表ができた。」など一言二言の生徒の感想がほとんどでした。
生徒の中には、自分の口では伝えることができない悩みも、文字では表現できる生徒もいます。
そういった生徒を見落とさないように、もう少し本音を書ける取り組みとして、交換ノートを実施しました。
実施後、明らかに学活ノートとは違う反応が見られました。まず、生徒が記入する内容が明らかに変わったのです。担任とだけでしか共有できない内容が増え、今まで相談できなかったようなことを書く生徒も出てきました。すごい長文で書く生徒もいます。
しかし、毎日これを続けるとなると担任にかなりの負担をかけるため、1週間に2回実施し、担任が確実に継続できるように設定しました。
まとめ
私が相談を受けた学級では、まず上位2割が、担任とともに学級を立て直してくれる存在となるように、力を注ぐようにしました。
次に、中間層の6割が、上位2割側についていくように育てる働きかけを行いました。
その結果、学級全体の8割がプラスの方に育つことで、下位層の2割についても自然と底上げされたように感じます。
この取り組みを始めて、学級の生徒たちは、着実に変化を見せ始めています。そして何より、生徒と担任のつながりが構築され、学級内に生徒と担任の笑顔が増えたことが最もポジティブな変化です。